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過剰債務を返済するために会社分割を使う方法

もともと、過剰債務の過剰部分を減少させ、残りの部分を返済していく方法としては法律の力を借りる民事再生手続きがあります。しかし、民事再生手続きでは債務を減少させた部分、つまり債権放棄を受けた部分に相当する法人税法上の債務免除益が発生します。それと相打ちできるだけの(繰越)欠損金があれば問題はないのですが、それがない場合、結局立ち往生し、民事再生は打ち切られ破産になってしまいます。

毎年のように税引き後利益がある年が続いたのに、去年突如として売り上げが落ち込み収益がなくなり過剰債務になってしまったという事例や、もともと不動産を持っていない場合や、持っていても地方に所在しており評価損などあっても額がしれている、というような場合です。

リーマン・ブラザーズの破綻以来、平成21年に入り、このような事例が多くなりました。過剰な債務があり銀行はもう貸してくれない、しかし顧客は一流の大会社だから未来はあるから破産する必要もないし破産したくもない、が、民事再生に入ってしまえば顧客は許してくれないし欠損金もないから破産の道しか残っていない。このようなとき、会社分割は優れた返済方法を提供します。事業と過剰債務とを一旦切り離し、債務免除益の発生を防ぎ、マイナス分割による税法上の減価償却を用いる方法と組織再編対価(としての株式や社債)の不思議さ柔軟さを利用する方法です。

問題は債権者の同意です。取引上の債権は承継しますから問題は少ない。問題が起きるのは金融債権です。会社分割を実行することによって始めて可能になる返済方法を、会社分割の実行前に金融債権者が理解してくれればよいのですが、金融債権者は会社分割をまだまだ理解していない人が多いし、彼らの中には紳士とはいえない人々もいます。会社分割を好機に返済不能な高額債務の承継を呑ませようと攻めてくる人もいます。債権者の同意を得るため平身低頭し交渉に長時間かけていたのでは手形不渡りを出し会社が潰れてしまう、とすれば、やはり会社分割をまず行い、その後に返済計画を提示する外ないでしょう。

つい最近、過剰債務であっても返済の道を歩きたいと言い切る企業人に会う機会がありました。是非、その人たちに触れておかなければなりません。会社の名誉のため、一族の誇りのために、100年かかっても返済しようという人たちです。よく名の知られた企業で、このような企業があることは知っていましたが、このように気概ある人たちについ最近まで会ったことはなかったのです。プロローグで47年かけて債務の額面全額を返済する計画を紹介します。例によって実際にあった事例を若干脚色してお話にしてあります。

かって、銀行の不良債権処理が政治問題となった平成13年、時の経済閣僚会議は「緊急経済対策」を打出しました。そこでは、不良債権の処理と過剰債務解消の一体的解決が叫ばれ、具体的方法として、私的ガイドラインの作成、産業再生機構の活用、民事再生法会社更生法の活用、それに会社分割法制の活用が推奨されました。

このときはじめて会社分割が不良債権処理の一方法として扱われました。問題は、債権者側の課題である不良債権処理が債務者側の課題である過剰債務の処理と、同時に追求すべき課題として一体化されてしまったことでした。いわば、債権者の不良債権処理に貢献できる過剰債務の処理だけが過剰債務の処理として意識化されることになり、債権者が不良債権を処理し帳簿から落とそうと決心したときだけ債務者に過剰債務を税法上損金処理する機会が与えられるというわけです。

以来、さまざまな過剰債務処理の方法が現れましたが、このためでしょう。もてはやされたのは債権者主導の方法だけでした。わずかに、会社分割だけがその例外でした。会社分割は債務者主導の過剰債務処理方法として生き残ったのです。

債務者が会社分割をしたいと願う理由は、さまざまです。ただ、収益性ある事業がないのに債務を逃れたいという事例は論外ですが、それら債務者に共通の願いは、いまのままでは事業の再生はない、倒産は不可避だ、収益性のあるこの事業を再生させるために過剰な債務を切り離したい、という一点にあります。

その後の過剰債務の「処理」の仕方については、それぞれの事案に応じてさまざまです。分割会社についての民事再生、特別清算、破産、そしてDCFを用いた分割承継社株式の売却、資産調整勘定を用いての減価償却、社債を用いての長期返済。過剰債務を処理することが出来る手法のうち、債務を返済する方法を計画することができるのも、会社分割だけであることは強調されてよいでしょう。

本書は、攻めにも守りにも会社分割は有効なだけでなく、返済方法の提供においても優れた方法であることを明らかにするでしょう。

平成21年経済大不況は深刻です。金融は涸れてしまい、中小企業の疲弊はただごとではありません。ここでも、あちらでも、中小企業は、蹲り、身動きできなくなっています。売り上げの急激な減少のため、規模を縮小しなければならないが、従業員を解雇するための退職金を用意できない、などという事態です。これに抗して、つい最近、『事業再生ADR』、『第二会社方式』、『株式会社企業再生支援機構』と立て続けに新しい方策が打出されてはいます。しかし、いずれの方策も、債権者、つまり銀行が同意しない限り使えない方法ばかりです。銀行もまわりを見渡し、へたな動きはできないぞと首を竦めています。

会社分割という、債務者主導で過剰債務を処理する方途が、もっと広く認められてよいと思うのです。

平成21年9月

弁護士 後藤 孝典

 











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