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虎ノ門国際法律事務所
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2013.09.20

婚外氏違憲最高裁決定を受けた事業承継対策の必要

最高裁はこの決定により司法裁判所としての分を越えて、立法者としての道を歩み始めた

                                    

最高裁平成25年9月4日決定は、父母が結婚していないからという理由で法定相続分を嫡出子の二分の一とすることは、「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすこと」だから許されないと非難しています。最高裁はその理由を、
①昭和22年の民法改正以降、国民の家族感が変化してきた、
②諸外国で婚外子差別外撤廃されてきた、ことに置いています。

まず晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加、家族感が変化したのは確かでしょうが、大事なことは、これらの事実をどう理解するか、です。

この点について、最高裁は上記①に対応して、
(イ)『昭和50年前半ころまでは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数は、その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか』、晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加、「これらのことから、婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴ない、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいる」ことを理由としてあげている。

しかし、これがどうして嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由になるのでしょうか。

最高裁は嫡出子ではない子の出生は昭和50年前半ころまで減少していた、その後現在に至るまで増加しているとしていますが、戦前は現在とはけた違いに嫡出でない子の出生は多かったのです。
1925年は出生数に対して7.26%、
1930年は6.44%、
1940年は4.1%
ボトムを迎えるのは1978年で0.77%、
それから増加に転じているが2011年に2.22%、
2012年に2.23%のていどに過ぎない(以上いずれも人口動態統計から)。
最高裁の論理でいえば、戦前ではなぜ嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由が成立しないのか。

晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加などが事実であろうと、これらは家庭が壊れてきているということであって、なぜ家庭が壊れてくると、嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにして、もっと家庭を壊さなければならないことになるのか。

最高裁は②に対応して、
(ロ)ドイツ、フランスでは嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と差別する立法が撤廃されている、「差異を設けている国は、欧米諸国にはなく、世界的にも限られている」と言っているが、しかし、なぜこれが嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由になるのか。

最高裁は、家庭を個人が棲むところ位にしか思っていないようだが、
家庭は古来家業を遂行する現場か、そうでなくとも家業遂行の指令塔であった。 
家業(もちろん農業・漁業を含め)においては、家産の承継は死活的に重要な意味をもっている。
日本全国の企業総数約420万社のうち99%は小規模、中小企業で、同族企業だ。

この小規模、中小企業、同族企業が日本の産業の基盤をなしている。このように小規模、中小企業にとっては、遺産の最重要部分は中小企業の生産施設とか当該企業の株式であるから、その企業の生産と収益向上に貢献する可能性の高いほうに法定相続分を多くするのが合理的である。

家庭の外にいて、家産の承継ではなく、家産の取得だけを考えるものに対して、厳しくすることには合理性がある。

家産の集中、累積は、単に物的財産の蓄積ではない。知識と技術の蓄積でもある。いわば、日本の国力なのだ。最高裁の裁判官たちは、家業とか老舗とか、事業を継続し、承継することの重要性を理解していない。

この薄っぺらい平等意識のもと従業員の生活までも壊してしまってもよいものだろうか。

パリには「エノキアン協会」という名前の経済団体があり、これに参加できるのは創立以来200年以上の歴史がある企業で、しかも創業者の子孫が現在も経営 を続けている優良企業だけに限定されている。伝統企業が名を連ねており、イタリア16社、フランス12社、日本からは4社が参加して、ドイツ4社、スイス 2社、オランダ1社、北アイルランド1社、ベルギー1社、合計で8カ国、41社が参加している。そのうち、一番古い企業は実は、それは日本で、石川県小松 市にある「法師旅館」だ。

718年(養老2年)の創業で、ギネス・ワールド・レコーズには「世界で最も歴史のある旅館」として登録されている。日本企業はほかに、虎屋(1526年 京都で御所御用菓子商として創業、遷都ともに東京へ)、月桂冠(1637年創業)、岡谷鋼機(1669年創業)、赤福(1707年創業)が参加している。

日本の老舗企業のうち、創業以来100年以上経過している企業の数は、宗教法人、学校法人、医療法人など非営利法人を別にして、2008年現在で1万9518社あり、そのうち200年以上経過している企業は938社、300年以上が435社にのぼっている。200年以上経過している企業の数では日本は断トツ、世界で一番多い。

老舗企業がわれわれの周辺に存在している。江戸時代から続いている温泉旅館などは、どこにでもざらにある。神社、仏閣を「老舗」にいれてもよいのなら、千、二、三百年程度の古さは、それこそ、どこにでもある。

どの企業にも創業の企図がある。ある企図が企業の中に連綿と続いていることは、これは日本が世界に誇るべきことだ。なぜこれほど長寿企業が多いのか。

その理由の一つは、家業を大事にし、家産を分散から防御してきたからだ。このような日本が、なぜフランスやドイツなんぞの真似をしなければならないのか。これは日本の国力を減少させることになる、恥ずべき決定というべきだ。

最高裁はこの決定により司法裁判所としての分を越えて、立法者としての道を歩み始めた。

それだけに嫡出子が関与する遺産分割が確定していない相続の現場はもちろん、今後の遺産分割の局面では大混乱が始まるだろう。

そうであるとしても最高裁の決定である以上、今後は、嫡出子でない子が嫡出子と同じ相続分を有すると敵対的に主張し、遺産分割協議にも、遺産分割調停応じようとはしないで、遺産分割審判にすすむ事例が多発するであろう。

しかし、そうだとしても嫡出子の側は家業を守り、家産を守り、従業員の生活を守る必要性は依然として変わらない以上、挑戦には防御をもって対抗すべきである。

嫡出子でない子をつくってしまった者は家族と家業を守るため、遺産を嫡出子に伝えるため遺言書を作成すべきであろう。

これは最低限度の心得だ。その内容が遺留分に反する法定相続分を指定し、あるいは遺留分に反する遺贈を含むものであっても、その遺言が違法になるわけではないし、無効になるわけでもない。

ただ遺留分減殺請求がなされるかもしれないだけだ。そのような遺言状を書かない場合であっても嫡出子でない子は嫡出子に対して同等の相続分を主張して遺産分割審判をもって挑戦してくる可能性はきわめて高くなったのだから、司法戦争は不可避である点においては同じである。

嫡出子でない子をつくってしまった父をもつ嫡出子たちは自分と家族と家業を守るため、父を説得して、嫡出子でない子の遺留分の生前放棄をできるだけ早い段階に立案実行させるべきであろう。

しかし、防御手段としてももっとも有効な手段は、父は自己の財産に対する処分権限を有しているのだから、生前中に主要な家産は相続財産としては残らない方法をとる事であろう。

といっても、父の生存中に嫡出子に生前贈与せよなどといった原始的方法をとるべきだと言っているのではない。

父が死亡した時点で遺産はなくとも先祖から伝わる事業を承継する方法はいくつもある。もちろん合法的な方法である。事業は承継する方法を完璧に講じた上で相続遺産としては存在しない状態にするのだ。

嫡出でない子の挑戦は、ようするに財産をよこせと言う要求であるから、

遺産は無い状態にすれば相続分も遺留分減殺請求も意味を持たない。

嫡出でない子の戦いは父が亡くなった後に始まる。だから父が亡くなる前に勝負をつけてしまうことだ。戦わずして勝つ方法だ。

重要なことは遺産を手に入れることではなく、事業を承継することだ。

承継した事業を自己が支配し、事業から獲得できる収益は自分に帰属するよう構成すれば、自分をまもり家族を守り、従業員を守ることができる。

相続税は納めないことになるが、それは最高裁が原因を作ったのだから嫡出子に責任は無い。

以上

弁護士 後藤孝典

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